学校遺産としての価値

いま、人口減少のため全国の小中学校が統廃合されています。

北海道室蘭市も例外ではなく、少子化に伴って、統廃合が進んでいます。
ここでは、学校遺産としての絵鞆小学校について考えていきます。

1.統廃合による想い出の喪失

統廃合によって失われるのは、建物だけではありません。
想い出の木も伐採されてしまいます。

例として、港南中学校を取り囲む木の写真をご紹介します。
この学校では、数本を残して、ほとんどが伐採。伐採するにも理由があったでしょう。
しかし、ほとんど無くなるのは寂しいものです。
旧中島小学校では、ほぼ伐採のところを市民の動きによって、3割伐採と大幅いに回避されましたが、
室蘭市内ではほとんどの学校で、伐採が進みました。

故郷を離れ、そして帰っても、学校の校舎、校名、木、懐かしい風景はもうそこにはありません。
その中で、さまざまな価値がクロスする絵鞆小学校は、どのような選択をするのがいいのでしょうか。

 

以前は一帯に木が生い茂っていました。

 

2.歴史をつなぐ

もう1つは、統廃合によって、校名が変わってしまうことです。
室蘭市内では、ほとんどの学校がまったく新しい名称になりました。

ちなみに、室蘭は、常盤小学校を起源とする系統があります。
人口の増加とともに、分校が増えていきました。

絵鞆小学校は、常盤学校の分校にあたります。
この地域の人口が多くなったことから、さらなる分校として桜ヶ丘小学校が生まれました。
室蘭は、かつて人口が最大18万人まで伸びた街ですが、いまは人口8万人台
統廃合は当然の流れでしょう。

すべての名称が変わることで、歴史が見えにくくなります。その歴史をどう繋いでいくのがいいのでしょうか。

では、なぜ歴史をつなぐことが大事なのでしょうか。
それは、人口が減ったからといって、当時住んでいた人がすべてこの世からいなくなったわけではないということです。多く出て行った人たちにとっては、ふるさとであり、人生の根っこになる多感な時期を過ごした、想い出の地なのです。歴史を大切にすることはまた、街の信用にもつながります。もし、あなたが訪れた土地の人が歴史を大切にしていない姿を見て、その街に好感を持つでしょうか。住みたいと思うでしょうか。歴史を大切につなぐ姿に「信頼」を感じるものではないかと思います。

いま、絵鞆小学校では、これまでの小中学校の看板、写真などを1校パネル1枚展示していく動きが進んでいるようです。最低限の内容ではありますが、これは母校を失った人にとって良かったのではないでしょうか。

 

3.絵鞆小学校の簡単な解説

絵鞆小学校は、さまざまな価値がクロスする小学校です。
この点はこのあとのページに詳しく書きましたが、学校遺産という点から少し考えてみます。
特に、活用を考えたとき、どのように使われるにせよ、観光の視点は欠かせません。人口の少ない街で、流動人口による活用効果は持続的に存在させるために重要です。それでは、学校遺産を観光活用するという観点から絵鞆小学校の特徴を考えてみましょう。

① 特徴的な円形校舎。
まず、円形校舎。
円形校舎が2棟繋がっていることで、丸い空間を行き来できます。
これは、一度入ってみるとわかりますが、こころが丸くなります。
ワクワクし、発想が豊かになるものです。

 

② 屋上、最上階から、絶景が展望できる。

らせん階段の頂上に位置する円形の展望は、絵鞆半島の先から見える特徴的な風景を一望できます。

・大黒島
・有珠山
・羊蹄山
・白鳥大橋
・風車
・工場(函館どつく、新日鉄住金)
・住宅、街の景色
・グラウンド(閉校しても、少年野球の子供たちの姿が見える)
・鍋島山

これが一望できるというロケーションの良さがあります。
観光にはぴったりでしょう。

展望できる最上階

昔は、手前の建物も少なく、大黒島がすっきり見えた。

白鳥大橋の向こうに羊蹄山。夜は美しい夜景になる。

 

教室からはらせん階段が見えます。
このらせん階段はとても美しい形状です。

絵鞆小学校出身者でなくても、ファンが多いデザインです。

 

教室から見えるらせん階段。

 体育館は、3階にあり丸い形状です。

1F,2Fより直径が大きいところが特徴です。
耐震はここを配慮しなければならないでしょう。

体育館はなんと3F。

 

閉校式のあとの最後の卒業生が書いたと思われる黒板。ありがとう。

 少年野球の子供たちの声は、まだ小学校として機能しているかのような錯覚に陥ります。
閉校した学校も、グラウンドを活用し、違う形でも校舎を活用することで、学校が復活します。

子どもたちの声がいまも響く、絵鞆小学校。

そのほか、

③ アイヌを全道で一番はじめに受け入れた小学校
④ 世界遺産に連なる縄文遺跡が小学校の土地に眠る
⑤ 建築的に価値のある円形校舎
⑥ 記憶を呼び覚ます学校の効果

といた価値があります。詳細は別のページをご覧ください。

4.市内小学校の想い出の場所

先にも述べたように、いま耐震をクリアしている建屋では、1校1パネルくらい、閉校した小学校の展示をしています。近いうち完成するようですが、これは1教室1学校くらいすべきではないかという声もあります。

絵鞆小学校を、室蘭の小学校遺産として機能させることは、多くの人の人生の根っこの部分をしっかり街に残すことにほかなりません。

もし、閉校の小学校の想い出の保管と活用をうまくしている街の事例がありましたら、教えていただければと思います。参考にしていきたいと思います。


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